メイド刑事(早見裕司著)

ジャンル:ミステリ

 メイド萌えには三つの潮流があります。

 一つは、メイド服のビジュアルに偏した萌え方。あんまり往時の欧州のメードはいかに、みたいな事を考える事なくその外見に熱を上げる。見た目可愛けりゃいいのでミニスカ胸開きみたいな方向にもあっさり向かう。代表的な作品は、『これが私のご主人様』あたりになりますが、まあオーソドックスっちゃオーソドックス、メイド喫茶なんかの発想の根本にもこれがあります。

 二つ目は、ビクトリア朝萌え的メイド萌え。メイドさんがいっぱいうろついていた19世紀イギリスそのものに萌え、俺ビクトリア朝を作品世界内に構築する事に血道を上げるタイプです。ストロングスタイルのメイド萌えと称してよろしかろうかと思われますが、代表作は無論現代日本の二大ファナティックメイド/ビクトリア朝漫画・『エマ』『アンダー・ザ・ローズ』であります。この二作品はリアル系/スーパー系(無論全てのメイドは備品をくすねる、と信じている船戸明里がスーパー)メイド漫画として、実に良い対照なしてると言えます。

 そして三つ目。それがこの作品の所属します、現代社会に異人としてのメイドさんを放り込んでそこに巻き起こるカルチャーギャップを楽しみたい、という、安易なんだかひねてるんだかわからん萌え傾向です。

 で、この傾向、本作以外の作例がなんかあるかって言ったら『仮面のメイドガイ』とかなわけでして。

 本作のメイドさんは、やはり明らかにビクトリアンなメイドさんではありません。

 『スケバン刑事』よりは『超少女飛鳥』、でもそれ以上に隆慶一郎ワールド住人、という、メイドと武士・士大夫の区別がついていない、と言いますか、卑しき街を行く誇り高き騎士――Detectiveなのでありまして。

 このような、異形のエートスを抱え込んだメイドさんを、社会階層とみなしてそういうメイドが消えゆく時代、として20世紀初頭を捉えなおすと『死ぬことと見つけたり』のイギリス版ができそうな気がしました。

GA文庫 2006年4月発行