サラン 哀しみを越えて(荒山徹著)

ジャンル:その他小説
 表題作がひどいひどいとは聞いていたけれど、本当にひどかった。
 そこまでがひどくない、て言うんじゃないんですが。朝鮮侵略前後の日朝を舞台に、故郷喪失者の哀しみと意地と愛を描く、なんて綺麗な形容だって嘘ではないけれど、その内実はレイプ、リンチ、死体に虫、美熟女、差別のオンパレード。これを重いテーマを正面から扱っている、なんて持ち上げたってしょうがなくて、個人の尊厳が社会によって理不尽に踏みにじられる様が書きたくて仕方がないだけにはやっぱり見える。
 勿論、己の快楽に忠実すぎる作家は愛すべきだし、その欲望に引きずられすぎる事無くしっとり重厚な文体とかっちりした構成を持った読める小説に仕上げてきてくれている以上、文句を言う義理でもないのだけれど、悪趣味だよね。
文藝春秋 2005年2月発行