コズミック流、水(清涼院流水著)

ジャンル:ミステリ

 コズミック!(感嘆詞)

 ついに読みましたよ清涼院。思いのほかまっとうでビクーリ。それでも大馬鹿でさらにビクーリ!

 伏線→回収は読書の快感の一つなのであり、特に本格ミステリはそれに頼り切ったジャンルだとは言えるのだが、それだけに徹するのは流石にやりすぎ。最高。

 露骨に張られた伏線を、露骨に出来うる限り素早く回収するという、それはつまり黄金期ジャンプの作劇術なのだが、露骨さと素早さにおいてここまでの達成はちょっと類例を思いつかない。多分、この上を行くのは何かが決まってしまった瞬間の車田正美くらいのものだろう。

 新犯罪という世界観を受け容れる限りにおいてはただ端正なだけで過剰さの欠ける『ジョーカー』、伏線の壮大さに酔い過ぎて回収する速度を見失った《カーニバル》の続編二作と比較してもやはり『コズミック』は圧倒的に上だ。「人類最後の事件」は結局生身の探偵が謎を解くほかないミステリの枠組みにはやはり大き過ぎるのだ。1200個の密室で1200人が殺される。それくらいが丁度いい(それにしてもこれはまた・・・随分と暗示的な題材ではあるまいか? 誰にも止めることはできない、無差別密室殺人。大量死―大量生とか神戸以降とか9.11以降とか、まあとにかく極めて現代的だ。特権的な死の夢想が封じられているはずの密室での、匿名の大量死というアイロニーたるや!)。

 ここまでくれば、(分かりきっていた事ながら)結論は一つだ。丁度いい過剰さと絶妙の速度。それを併せ持ったジャンル小説が傑作でないなどと言う事がありえるだろうか。無論、ありえない。

 世紀の傑作。食わず嫌いせず、読めれ。


講談社文庫 2000年4,5月発行