ジャグラー(山田正紀著)

ジャンル:SF

 困ったものである。

 パンキッシュな、オカルトが現世へと噴出した未来世界を、91年の段階で(そう、なんと『ブラックロッド』に五年も先立って!)描いていた事は、やはり流石ではあるのだ。無論、安易に「アメ・コミ」という言葉を使ってしまっているあたり、一言もそんな言葉を使ってはいないのにあのアメコミの原色の猥雑さをさえ表現しきっている『ブラックロッド』の世界観描写には及ばないのだけれど。

 構成は、奇しくも『地球・精神分析記録』に似ている。主人公のジャグラーが、次々と神話的英雄である五英雄を倒して歩く話であり、各エピソードの独立性も高い。

 しかし、その一つ一つの構成が、『地球・精神分析記録』とは逆に、長編全体のネタの開陳が遅らされている分やや破綻している。

 そしてそのネタの開陳は各章の独立性の高さによりさらに遅らされ、結局十分に展開される事無く物語が終わってしまう。

 どうにも中途半端な手ごたえの残る一冊であり、何はともあれ突き抜けてはいる山田正紀を愛してきた身としては、冒頭にも書いたとおりどうにも困ってしまうのだ。


徳間デュアル文庫 2002年4月発行