かめくん(北野勇作著)

ジャンル:SF
 第二十二回日本SF大賞受賞作。

 さて。何から書き出したものか。
 まずは解題めいた事から始めるとすれば、甲羅とは文化/ミームの謂いであろう。それはパラダイムとして認識の枠組みを規定すればこそ、「カメというものは自らの甲羅の中から甲羅の外を見るように出来ている」のだ。生得的な「甲羅」にメタファされる事によって文化なるもののある種の先天性が……、てこの話面白い? 自分で言うのもなんだが、あまり面白くはない。
 『ブライトライツ・ホーリーランド』(古橋秀之電撃文庫)を引くのならば、「面白い」のは「お話」なのであって、それにV13の運命を擬えた事ではない、と言う事だ。

 他作品・作家との連関から語るとすれば、なんとなくサミュエル・R・ディレイニーを連想した。特に『エンパイア・スター』(サンリオSF文庫)。自己言及的な構造と、テーマ・スタイルを凝縮させたクリスタル/甲羅のモチーフの扱いに近いものを感じる。それで、僕はいつも扱いに困っていたディレイニーと言う作家に迫る糸口を掴んだような気になっているし、北野勇作特集の企画者である見月界夢に『エンパイア・スター』を読ませてみたいと思っているけれど、これはあまりに個人的な話で読者諸賢にはまるで興味のないところだろう。

 結局これはかめくんがかめくんでしかない事のかめくんでしかなさをかめくんがかめくんでしかないほどまでに描いた空前にして絶後の小説であり、したがってこの一文は既に数多の書評者が用いたであろう結語によって結ばれるほかないのだ。
 すなわち、つまるところかめくんはかめくんでしかないのだけれど、と。
徳間デュアル文庫 2001年1月発行