デジャ・ビュ(桜井亜美著)
ジャンル:SF
出だしは良いんだよ、出だしは。
ちょっとベアっぽい退廃未来なカンジで。
主人公がなんか精神を病んでるのもベスターとかを連想する事で十分燃えられるし。
でも、な。
違うんだよ。違うんだ。SFってのはそうじゃないんだ。
何がどうそうではないのかと言えば全くもってそうでないのであって、つまりそれはSFの前提である、「大きな何か」ってのがすっぽり欠けていると言う事なのだ。
それが例えばバラードあたり(特に短編)とどう違うのか、と聞かれると困るんだけど、バラードは大きな何かを必ずしも外に求める必要はない、と言っただけで、それはやっぱり彼の小説に根深く影を落としているハズ。ていうかそう。
その他にもこまごまとあちこちが間違っている小説で、例えば主人公の根性のなさとか言行不一致ぶりとかキャラ性にまるで世界設定が反映されてなかったりだとかするんだけど、究極的にこの小説はあまりに小さいのだ。現実を描く事に終始して、その先にある真実にまるで届いていない。
それをSFの可能性の追求だとかあとがきで言われても、ねえ。SFはアンタが思ってるよりもずっと遠くまで届いてるよ、としか言いようがない。
幻冬舎文庫 2001年12月発行