NHKにようこそ!(滝本竜彦著)

ジャンル:その他小説  
 前作とテーマ的には通底しあうデビュー第二作。
 前作の幻想性は慎重に排除され、リアリズムベースで進むジャンル純文学としてこの作品は成立している。
 だが、同世代に共通する体験が失われてしまった現代、経験性とそれへの共感で読者をテーマへと引き込むジャンル純文学は難しい。そんな現代だからこそ深刻で普遍的なテーマを”幻想”の媒介により抽象化し、共有可能化する幻想文学の力はいや増していると言っていい。
 観念を生き切る事の困難と普遍的な生の苦痛。このテーマは悪くない。普遍性があるし、言い方はナンだが、キャッチーでさえあると思う。
 が、それを引きこもり青年のリアリズム的生活として表現した時点で、引きこもっていない青年に対して絶望的な距離が開けてしまう。普遍的な苦痛を、特殊な引きこもりの特権として占有するような、ナルシスティックな自己憐憫の匂いがどこからか入り込んでしまうのだ。
 引きこもりになりうる若者ではなくなってしまった人間が読む分にはこれは優れた青春小説であろう。最早若くはない彼らにとって若者の営為は全て向こう側の出来事であり、言ってしまえば中つ国やファンタージェンと同じ地平に存在しているのだから。
 だが、これは引きこもりでない同世代への発信ではどうしてもありえない。

 かつて安田講堂の立てこもり達は少数派であったにも関わらず同世代の英雄だった。だが、同じく時代の病理を一身に引き受けている引きこもり達はにもかかわらず同世代の英雄ではありえない。
 「引きこもり世代のトップランナー」はだからリアリズムの地平では大人に阿る僕らの裏切り者にしかなれないのだ。合掌。
角川書店 2002年1月発行