十二月のベロニカ(貴子潤一郎著)

ジャンル:ファンタジー
 SF・ファンタジーを成り立たせる根幹には、世界が人物のエモーショナルに思い入れる対象になりうるという確信がある。
 世界と抽象的自我を対峙させる傲慢なこのエモーション、世界感情こそがFT/SFの骨柄の大きさの源であり、この世界感情を欠いた作品はどんなに人物同士のエモーショナルな動きを緻密に描きこんでいたとしても、本質的に骨柄の小さな、誤解を恐れずに言えば下の下の幻想文学でしかありえない。
 そして、叙述トリックだけは綺麗に決まるし人物の情念は描けているもののそれを世界のありようと誰も―作者も登場人物も―結び付けられないこの作品は、その隘路にこの上も無く綺麗にはまり込んでしまっている。
 ある意味理想的なファンタジー論のツマ。
富士見ファンタジア文庫 2003年1月発行