おおきくなりません(白倉由美著)

ジャンル:ファンタジー

 言ってしまえば白い紙に印刷される黒い文字は、S-neryの、桂川千絵や、桑島法子や、豊嶋真千子や、前田このみや、前田千亜紀の声ほどには豊かではない、というただそれだけの事。

 つまるところそれが、小説家白倉由美の、必然的な限界だ。

 見えやすすぎる寓意、見覚えがありすぎるモチーフ。その、あまりにもあけすけな白倉のテクストのあるいは浅いのかもしれない奥を、隠蔽していた彼女たちの声はここにはないのだ。

 そのあまりに残酷な事実の前に、この小説が平凡なりに良く出来たファンタジーである事など、何ほどのものであろうか。

 それでも多分、次の本も俺は買うだろう。喪われた何かの、せめてものよすがに。無論、それが何かを語るすべさえ俺はまだ持たないのだけれど。

講談社 2002年10月発行