戦略拠点32098楽園(長谷敏司著)

ジャンル:SF  
 ネタばれ注意。
 清冽な感動、と言えば一言で済むのに、その感動を延べ棒で叩いて叩いて伸ばしたような、そう言う感想を、例えばこの作品については書いてみたくなる。無論、どうせ書けはしないのだけれど。
 それに値しないではない、これは良く出来たお話で。
 生きながらにして墓場に迷い込んだ二人の男が、思い出を持たない、不死身の、それが故に純真無垢で有り続ける少女を挟んで、己の生を取り戻して行く。まさしく思い出す事によって。
 思い出を持たない少女は永遠に/を生き続け、思い出を溜め込まざるを得ない二人の兵士は、死に向かって今を生きる、そのアイロニーをさらりと軽やかに描いてのける、そのセンスの良さ。
 無骨で固いこんなレビューではなく、金箔のような繊細なレビューこそがだからこの作品には相応しいのだ。
 ただし、時に繊細さが行過ぎて、むしろナイーブな印象をさえ与えてしまう節が随所に見受けられる。その違和感をしかし、際立たせない短さもまた見事なのだけれど。
角川スニーカー文庫 2001年12月発行