されど罪人は竜と踊る(浅井ラボ著)

ジャンル:SF  
 古橋秀之信者なので、科学と魔術が融合した世界、と言うような設定の小説には目を通さざるを得ない。小説を読む楽しみを知ってすぐに出会った〈ブラックロッド〉シリーズが、つまりその手の小説の中で本当に最高のものなのかどうか確認しないわけには行かないからだ。そしてその度に俺は俺が信じていたのが本物の神であった、と知らされるのだ。
 この第八回スニーカー小説大賞受賞作も、要はそんな話である。
 ここまでの論旨で分かるだろうが、『ブラックロッド』に比べれば全然である。ある種、何故大学出たての若造にあんな話が書けてしまったのか、そちらの方が奇跡だとしか確かに思えない。
 『ブラックロッド』が、そしてその続編が奇跡的に良く出来ているのは、陰謀の主体をあくまで非人間的な、ASCという組織としてしか描いていない事である。悲劇は人間の意図を超えて起こるからこそ悲劇なのであって、それを一人の人間の営為に回収してしまってはただの絵空事である。
 結局非人間的な策謀の主体の人間ってどう描いても興醒めなんですよ。超人にしてしまってはリアリティを失うし、組織人として描いてしまっては凄みに欠ける。
 このような書かなくていい事がいっぱい書いてあって、げんなりする事この上なし。語り手兼主人公が恋人を賛美するとことかもう思わず頭を抑えてしまいます。
 はい、今回も私の信仰には一片の曇りも生じなかったようです。
角川スニーカー文庫 2003年2月発行