斬魔大聖デモンベイン 機神胎動(古橋秀之著)

ジャンル:SF
 オーガスタ・エイダ・ダーレスって名前の時点でもう勝ちは決まってるんじゃないか、とか思う人向け。機械語訳『ネクロノミコン』とか、そんなんでハートをグッと掴まれたいならまあオススメです。ブラなんたら三部作ほどではないにしろその手のアイデアには事欠きません。
 まあ、それだけなんですけど。

 なんでも書けるけどただ一つキャラクターの成長だけは描けない古橋秀之の作品でかつ単一視点・登場人物少ないので、確実にダレます。キャラクターの内面を描くつもりも一切ないので盛り上がらない事おびただしいです。
 そういう部分はつまりブラなんたらシリーズから人間理解が一切後退していない事を端的に示しているのではあって、頼もしくはあるけどその人間理解の進度と小説の結構の旧弊さの齟齬にどうにも乗り切れないものを感じる。成長とか内面とか、そういう近代的な何かは長いお話の間を持たせるには格好のネタなのであって、それを使えないのはやはり辛い。視点切り替えでごまかしちゃえばいいのに、と思うのだが、ブラなんたらシリーズでもタツモリ家でも光っていたその技術をどうして封印しているのだろう。
 結局行き着くところまで行き着いた痙攣的場面転換に内面やら成長やらを絡められる成田良吾によって古橋秀之は乗り越えられたといえなくもない、とか思わされるのがイヤ。
 いや、そんな事ないと思うけどな。
角川スニーカー文庫 2004年8月発行