サマー/タイム/トラベラー1(新城カズマ著)

ジャンル:SF  
 凄い。が、キモい。
 超一流の物書きの超一流のお仕事だ、とかそういう感じ。
 んー、んー、んー。
 作者の本気って言うのは単純にリソースをどんくらいぶっこむか、という量的なアレと、どれだけ生身の問題意識を反映させるか、という質的なアレの二種類を想定していいと思うんだけど、前者の意味では紛れもなく本気なんだろうけれど、後者の意味ではどうなんだろう、書痴系とかSFファンとかなんとか、そんな人たちが喜びそうなモンを書いておこうかなー、というだけのように見えてしまわなくもない。例えば作中でタイムトラベルを取り扱った過去の諸作品に対する言及があるんだけど、これがまあ見事にメジャーどころばかりで、絶妙に「基本だよね」って言っちゃうマニアの人も「すごいマニアックでかっこいい」って言っちゃうトーシローの人もどっちも掴まえられるラインを突いていて、うーん、と唸らされる一方で、その手には乗らないぞ、と警戒心を新たにする俺がいる。
 えーっとねえ、すごくねえ、卑怯なのさ。ノリは殆ど『ガチンコ』。その時とんでもない事態が以下CM。なんか1巻はン期生のはねっかえりが竹原に暴言吐いたくらい?
 語りってのは事後的に形成されるからさ、どうしたって語り手は未来を先取りできてしまうし、これ以前の新城作品でもそのような先取られた未来を用いた演出みたいな事は散々やられてきたわけさ。だけど、その未来をこれほど邪悪なものとしてばかり描く作家だったかしら。それじゃまるで秋山瑞人みたいじゃないさ。
 9.11でなんか壊れちゃったのかなあ、昔はこの作家の中にあった、崇高なものへの信仰が。
 うーん。
 タイムマシンとしての語り? 悔恨欲が奪う未来? メタ? 読者批判?
 なんかこう、そっち持ってかれてもって感じではあるし、ただ悠有が消えちゃったーじゃまあへーでおしまいで、うーん、秋山瑞人か、シャカイ系っぽさを考慮に入れりゃ殆どいっそ浅井ラボレベル。
 いや面白いんだよ? 夢中で読んだよ?
 うーん。

 決定的な瑕疵を一つだけ。
 現実・虚構の区別がつかない病人、という議論が作中にあるんですが、それは当然その区別を明確につけられる健常者の存在を言外に前提してんのね、当然。
 中村九郎『黒白キューピッド』あたりだと、主人公は普通のどこにでもいる健常者なのに、なんか現実と虚構の区別があんまりしっかりついていない。こっちの方がリアル・フィクションにおける人間把握としては確実に新しくて絶対に正しいよね。
 あー、うん、古臭いっちゃ古臭い。ぶっちゃけ言うが今時新城カズマで喜ぶのって25以上のおっさんだけじゃね? 含俺。
ハヤカワ文庫JA 2005年6月発行