サマー/タイム/トラベラー2(新城カズマ著)

ジャンル:SF  
 えー、秋山瑞人、さらには浅井ラボなんかと引き比べてしまった事について、不明を恥じます。
 新城カズマがそんなにシンプルな伏線を張るわけはなかった。新城カズマがそんなに簡単に諦めるわけがなかった。
 そんなわけで、30年残る価値のある傑作。

 以下ネタバレ。
 誰かがどこかにいてくれる譚というジャンルがなきにしもあらずだけれど、これはその究極形と言って良かろうように思う。
 それが空間的に表現されるのならば欲望半径になるのだし、それが時間的に表現されるのならば未来へ駆けて行く少女になるだろう。
 誰かがどこか/いつかにいてくれるから、未来へ進んでいく事ができる、という新城カズマらしい前向き極まりない小説。
 だから、上巻であれほどそれっぽく煽られたにも関わらず、これは成熟と喪失の青春小説ではまるでない。
 こういう小説を形容する大仰な言葉を俺は知っている。
 すなわち、人間讃歌。
 である、と言う事の魅力が精一杯に発揮された一つの傑作。若い子に読ませたい、と言いたくなる感じもなくはないが、十代ってのは秋山瑞人とかを読んで世を拗ねたい季節なのでまあ無理かも。25歳以上の世を拗ねてたって結局なあ、て感じになっちゃってる人にこそやっぱりおすすめ。
ハヤカワ文庫JA 2005年7月発行