佐藤友哉「赤色のモスコミュール」

 痛たたた。いや、チンコが。
 器用な痛い系青春小説。相変わらず上手い。けどそれ以上の何かがあるかっつーたら微妙。上手いんだけどね。
 ダメだって、佐藤友哉はもっとあからさまに枠はめてやんなきゃ。これくらいの佳品を連発されてもズガンズガンはこないっちゅうねん。
 連載向きじゃない人だけに「世界の終わりの終わり」と「鏡姉妹の飛ぶ教室」は連載という枠をはめられているだけに緊張感があっていいのだし、『クリスマス・テロル』の奇跡的なバランスは密室本の縛りの中ではじめて成立したのも明らかだ。あえてミステリを書かせるべきなんでしょう、多分。
 ミナミ君好きなんだけどね。

舞城王太郎「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」

 なんか舞城って感情移入できないんだよな。巧い、とは思うんだけどどこか人事。ジェンダーパニック? 二つの場所を往還して? 噴出する暴力? 勢いのある文体?
 どれも世間的に価値の認められたブンガク的な萌え要素であって、その備え方は完璧だが、そのような世間の価値観から零れ落ちる、未だ名付けられ得ない何かへの通路に欠ける。
 賞レース用に仕立てられたレーシングマシン、みたいな。美しいとは思っても欲しくない。ロードゴーイングマシンの面影がない。5ターボ萌え。

東浩紀「動物化するポストモダン2 メタリアル・フィクションの誕生」

 面白い。
 別段目新しい事は言ってないっていうか、ある種のエロゲーマー/ギャルゲーマーにとっての常識的な感覚をまとまった商業原稿にしただけの評論ではあるのだけれど、それだけに反論すべき点がほとんど見当たらない。すげえや。
 「この点で、本論のギャルゲー/ノベルゲー論は、『動物化するポストモダン』よりも少しだけ前進している。」とかはまあ、ご愛嬌でしょう。

清涼院流水スーパーインタビュー

 凄い。凄いよこれは。なんていうのかな・・・・・・。清涼院流水は、実在するッッッッッッッ! と思った。
 そんな事を思っていたら現代の出師の表なる評にぶつかった。うーむ・・・・・なるほど?

奈須きのこ×武内崇 緊急インタビュー

 普通に面白いけど、この組み合わせならそうでしょ、て感じ。
 この勢いに乗せて笠井先生が高橋直樹原田宇陀児元長柾木などの笠井潔ファンのエロゲークリエイターに毎号話を聞きに行くのはどうだろう。

ジェットストリーム・トークセッション 斎藤環×滝本竜彦×佐藤友哉

 これもまあこの組み合わせならこんなものでしょう。面白いけど。
 『フリッカー式』と『エナメルを塗った魂の比重』がエンタテインメントで、『水没ピアノ』以降はそうではない、という佐藤友哉の認識は変なのだが、なるほどこの人にとってのエンタメってエヴァだったのか、と思うと物凄く納得がいく。自分の話をするようになってからの方が端正な小説を書いているあたりとか。

森川嘉一郎「オタク20周年に寄せて」

 浮いてるよ。相当真っ当なのに浮いてます。
 これがアレか。オタクとサブカルの落差って奴か。
 ダメっていっときゃそれでいいと思ってるオタクの思考停止は唾棄すべきものだし、自分はセンスがいいと信じてる傲慢なサブカルどもは脳漿をブチ撒けさせてやりたい。
 オタクの生き様もサブカルの生き様も、どっちも先行世代が俺たちをコントロールするために敷いたレールだ。大人が敷いたレールの上になんて誰が乗ってやるものかよ、とこういう場では無責任に言い放つ俺なのだった。


 全体として読み応えはある雑誌だったと思います。版型が小さいのも便利。
 目次にページ数が入ってないのは手抜きの謗りを免れないでしょう。あと、イラストの使い方が物凄くヘタ。編集の拙さを感じるが、それも今後この雑誌が号を重ねるにつれて巧くなっていくのでしょう。編集者の成長も楽しめて二倍お徳ですね、と政治的に配慮しした発言。どこへ?